職場や現場に潜む危険性や有害性を事故が起きる前に見つけ出し、対策を打つ——それが「リスクアセスメント」です。

労働安全衛生法で努力義務とされている一方、危険性・有害性のある化学物質を取り扱う事業者については実施が義務化されています。

2024年4月の法改正では対象物質の拡大と対策の強化が図られており、企業が向き合うべき重要なテーマです。

リスクアセスメントとは

リスクアセスメントの基本的な意味

リスクアセスメントとは、職場にある危険性や有害性を洗い出し、それがどの程度のリスクなのかを見積もったうえで、優先順位をつけて対策を実行する一連の取り組みのことです。

事故や労働災害が起きてから対応する「事後対応」ではなく、あらかじめ危険の芽を摘んでおく「予防型」の安全衛生対策である点が最大の特徴です。

似た言葉に「KY活動(危険予知活動)」がありますが、両者は役割が異なります。

KY活動との違い

KY活動とは、作業者が日々の作業の中で危険を予測し回避する現場レベルの取り組みです。

それに対し、リスクアセスメントはリスクを数値化・可視化し、管理者や経営層を巻き込みながら組織的に対策を検討・実施する、より体系立ったアプローチです。

この2つを併用することで、現場の感覚と組織的な仕組みの両面から安全性を高められます。

法律上の位置づけ

労働安全衛生法第28条の2では、事業者にリスクアセスメントの実施が努力義務として課されています。

特に製造業や建設業では、労働災害の発生率が他業種より高い傾向にあるため、積極的な取り組みが求められています。

一方、化学物質については扱いが異なります。

2016年6月1日施行の法改正により、一定の危険性・有害性が明らかになっている「リスクアセスメント対象物」については、ラベル表示・SDS(安全データシート)の交付とあわせて、リスクアセスメントの実施そのものがすでに義務化されています。

対象は製造業や建設業に限らず、対象物質を取り扱う商社や医療・福祉なども含まれます。

さらに2024年4月施行の改正では、対象物質が従来の674物質から段階的に拡大されているほか、リスクアセスメントの結果に基づいて労働者のばく露濃度※を基準値以下に抑える「低減措置」の実施や、事業場ごとの化学物質管理者の選任も新たに義務付けられました。

ばく露濃度……労働者が作業中に化学物質に曝露される濃度

自社が対象物質を取り扱っていないか・対応済みかどうかを確認しておく必要があります。

┃リスクアセスメントが求められる背景

なぜ今、多くの企業がリスクアセスメントに取り組んでいるのでしょうか。背景には主に3つの要因があります。

第一に、法改正によって対応を迫られる企業が増えていることです。

特に化学物質を扱う事業者にとっては、実施していない・形式的に行っているだけでは、労働基準監督署の調査で安全配慮義務を果たしていないと判断されるリスクがあります。

第二に、労働災害が発生した場合の企業リーダーとしての責任が、以前にも増して重く見られるようになっていることです。

もしも事故が発生すれば、事前にリスク評価や対策を行っていたかどうかが問われ、是正指導や行政処分に発展するケースもあります。

第三に、取引先や社会からの信頼性への影響です。

安全な職場づくりに取り組む企業姿勢は、従業員の安心感や取引先からの評価に直結します。

特にサプライチェーン全体でコンプライアンスが重視される昨今、リスクアセスメントへの取り組みは企業の信用力を示す材料の一つになっています。

┃リスクアセスメントの進め方【5ステップ】

リスクアセスメントは、大きく分けて次の5つのステップで進めます。

一度だけでなく、リスクが許容できるレベルまで以下のサイクルを繰り返すことが重要です。

1.情報の入手

まず、対象となる作業に関する情報を集めます。

作業手順書や設備の取扱説明書、過去のヒヤリハット事例、KY活動の記録などが情報源になります。

過去に類似の災害が起きていないかも合わせて確認しておくと、見落としを減らせます。

2.危険性・有害性の特定

集めた情報をもとに、機械や設備・原材料・作業行動・作業環境などを調査し、潜在する危険性や有害性を洗い出します

職場にはリスクの高いものから低いものまで幅広く危険が存在するため、すべてを一度に扱おうとせず、リスクが高いと想定される作業から優先的に着手するのがコツです。

3.リスクの見積もり

洗い出した危険性・有害性について、「発生の可能性」「発生した場合の重篤度」などの基準をもとにリスクの大きさを見積もります。

厚生労働省が公開しているリスクアセスメント記録表のような客観的な指標を使うことで、担当者や部署による評価のばらつきを抑えられます。

4.優先度の設定・低減措置の検討

見積もったリスクの大きさに応じて対応の優先順位を決め、具体的な低減措置を検討します。

対策を検討する際は、次の順序で考えるのが基本です。

📌設計や仕様の変更によって危険そのものをなくす

📌工学的対策(安全装置の設置など)でリスクを低減する

📌管理的対策(マニュアル整備や教育など)を講じる

📌上記で対応しきれない部分を保護具で補う

保護具は手軽に導入できる一方であくまで最後の手段であり、まずは危険そのものを取り除けないかを検討する順序を意識することが大切です。

5.対策の実施と記録

決定した低減措置を実行し、結果を記録に残します。

措置後のリスクについても同じ評価基準で再度見積もり、許容可能なレベルまで低減されているかを確認します。

記録を残すことで効果があった対策は他の現場にも展開でき、効果が不十分だった対策は見直しにつなげられます。

こうした記録の蓄積が、組織としての安全ノウハウになっていきます。

┃業種別の実施事例

リスクアセスメントの進め方は業種によって着眼点が異なります。

ここでは代表的な3つの業種の傾向を紹介します。

食品製造業

機械や刃物を使用する工程が多く、切傷や機械への巻き込まれ、転倒といった労働災害が中心になります。

防火管理委員会や安全衛生委員会が主導し、各部署の担当者がリスクを洗い出したうえで工場長などの責任者の承認を経て対策を現場に周知する、という体制で運用されている例が見られます。

金属製品・機械製造業

機械へのはさまれ・巻き込まれ災害が他業種と比べて多く発生する傾向があります。

ポンプの点検作業や設備の保守・点検作業でのリスク低減事例が多く報告されています。

こうした定常作業だけでなく、非定常作業(普段と異なる作業)のリスクアセスメントも重要な課題です。

建設業

高所作業や重量物の運搬など、現場ごとに条件が変わる作業が多いのが特徴です。

ある現場では、低減措置の実施によってリスクの優先度が3から1に引き下げられた事例も報告されており、対策の効果を数値で確認できることがリスクアセスメントの強みだと分かります。

なお、厚生労働省は食料品製造業や金属製品製造業などの実施事例集を公開しており、自社の業種に近い事例を参照する際の情報として活用できます。

┃リスクアセスメントによって得られる3つの効果

リスクアセスメントに取り組むことで、企業は主に次の3つの効果を得られます。

① リスクの明確化と従業員の意識向上

リスクを客観的な指標で見積もることで、対策の優先順位が明確になります。

従業員自身も「なぜこの作業に注意が必要なのか」を合理的に理解しやすく、現場の安全意識の底上げにつながります。

② 労働災害の減少

潜在的な危険を事前に洗い出して除去・低減することで、労働災害の発生を未然に防ぐ効果が期待できます。

特に非定常作業など、見落とされがちな作業のリスクを可視化できる点は大きなメリットです。

③ 企業の信用・評価の向上

安全な職場づくりへの取り組みは、従業員が安心して働ける環境の実現だけでなく、取引先からの信用性・評価にも関わります。

継続的にリスクアセスメントを実施している企業は、対外的な信頼性の向上も期待できます。

┃リスクアセスメントを進める上でのポイント

最後に、実務でつまずきやすいポイントを2つ紹介します。

危険性の記載は具体的に

「高所作業で危険がある」といった抽象的な記載では、対策の検討に進みにくくなります。

「外壁塗装のため高さ8mの足場上で作業中、足場板の隙間に足を踏み外し墜落する」のように、作業内容・状況・想定される事故を具体的に書くことで、実効性のある対策につながります。

全員参加で取り組む

リスクアセスメントは一部の担当者だけで完結させるものではありません。

従業員全員が職場のリスクとそれに対する対策を理解することが出発点です。

トップの決意表明から始め、現場の作業者の知識や経験も取り入れながら進めることで、より実態に即した対策が可能になります。

┃よくある質問(FAQ)

Q1. リスクアセスメントとは簡単に言うと何ですか?

職場にある危険性・有害性を事前に洗い出し、リスクの大きさを見積もったうえで優先順位をつけて対策を実施する取り組みです。

事故が起きてから対応するのではなく、未然に防ぐことを目的としています。

Q2. リスクアセスメントは義務ですか?

労働安全衛生法第28条の2により、事業者の努力義務とされています。

ただし、危険性・有害性のある化学物質(リスクアセスメント対象物)を取り扱う場合は、2016年6月1日の法改正以降、実施そのものが義務化されています。

Q3. リスクアセスメントとKY活動(危険予知活動)は何が違いますか?

KY活動は作業者が日々の作業の中で危険を予測し回避する現場レベルの取り組みです。

リスクアセスメントはリスクを数値化・可視化し、管理者や経営層を巻き込みながら組織的に対策を検討・実施する、より体系立ったアプローチです。

Q4. リスクアセスメントはどのような手順で進めますか?

一般的に「情報の入手→危険性・有害性の特定→リスクの見積もり→優先度の設定・低減措置の検討→対策の実施と記録」という5つのステップで進めます。

リスクが許容できる水準になるまでこのサイクルを繰り返します。

Q5. リスク低減措置はどのような順番で検討すればよいですか?

まず設計や仕様の変更で危険そのものをなくせないかを検討し、次に工学的対策(安全装置の設置など)や管理的対策(マニュアル整備・教育など)を講じます。

それでも対応しきれない部分を保護具で補うという順序が基本です。

Q6. リスクアセスメントに取り組むとどのような効果がありますか?

主に「リスクの明確化と従業員の意識向上」「労働災害の減少」「取引先からの信用・評価の向上」の3つの効果が期待できます。

┃まとめ

リスクアセスメントは、職場に潜む危険性や有害性を事前に洗い出し、評価・する一連のプロセスです。

「情報の入手→危険性の特定→リスクの見積もり→優先度の設定・対策の検討→実施と記録」という5つのステップを繰り返すことで、労働災害の防止・従業員の安全意識や企業の信頼性の向上につながります。

化学物質を取り扱う事業者にとっては実施がすでに義務であり、2024年4月の改正により対象物質の拡大や低減措置の義務化も進んでいます。

業種を問わずリスクアセスメントへの取り組みが求められる時代になっているといえるでしょう。

まずは自社の現場で特にリスクが高いと感じる作業から、できる範囲でリスクアセスメントを始めてみてはいかがでしょうか。

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