┃労災保険とは

労災保険(正式名称:労働者災害補償保険)は、業務中または通勤中の負傷・疾病・障害・死亡に対して、労働者やその遺族に必要な給付を行う国の公的保険制度です。

労働者を1人でも雇用していれば、業種や規模を問わず加入が義務付けられており、パート・アルバイトなど雇用形態にかかわらず、すべての労働者が対象となります。

保険料は企業が全額を負担し、労働者本人が負担することはありません。

健康保険や厚生年金保険のように労使で折半する仕組みではないため、経営者にとっては「気づかないうちに従業員を守っている制度」ともいえるでしょう。

労働災害は、業務が原因でケガや病気をした「業務災害」と、通勤途中の事故による「通勤災害」の2種類に分けられます。

工場内での機械操作中の事故だけでなく、社用車での移動中の交通事故、通勤電車の乗り換え時の転倒なども対象になり得る点は、意外と知られていないポイントです。

┃給付の内容

労災保険の給付は幅広く、状況に応じて次のような支給が受けられます。

📌療養給付

治療費や入院費など

📌休業給付

休業4日目以降、給付基礎日額の最大80%(60%の休業給付+20%の特別支給金)を、上限なく治癒・就労可能になるまで支給

📌障害給付

後遺障害が残った場合、その等級に応じて支給

📌遺族給付・葬祭給付

死亡時に遺族へ支給

📌介護給付

介護が必要な状態になった場合に支給

📌二次健康診断等給付

健康診断で異常所見があった場合の精密検査等

特に休業給付に支給上限がない点は、長期療養が必要なケースにおいて労働者にとって大きな支えとなります。

たとえば、工場での作業中に大ケガを負って半年以上の入院・通院が必要になった場合でも、休業給付は治癒または就労可能な状態になるまで継続して支給されます。

健康保険の傷病手当金のように支給期間に上限があるわけではないため、労働者にとっては安心材料の一つといえるでしょう。

なお、これらの給付を受けるためには、労働基準監督署への請求手続きが必要です。

多くの場合、会社が手続きをサポートしますが、最終的な請求権は労働者本人にあります。

事故が起きた際は速やかに労働者と情報を共有し、必要な書類をそろえる体制を整えておくことが望まれます。

┃加入手続きの基本

alt="労災保険の加入手続きについて”

労働者を1人でも雇用した時点で、労災保険の保険関係は自動的に成立します。

事業主は成立から10日以内に「保険関係成立届」を、50日以内に「概算保険料申告書」を所轄の労働基準監督署または労働局に提出する必要があります。

手続きを怠っていた場合でも、労働災害が発生すれば労働者は給付を受けられます。

ただし、事業主には遡っての保険料徴収や追徴金などのペナルティが科されることがあるため、雇用を開始したら速やかな手続きが欠かせません。

保険料率の決まり方と雇用保険との違い

保険料率は業種ごとの災害リスクに応じて定められており、たとえば建設業や林業のように事故リスクの高い業種は料率が高く設定される傾向にあります。

年度ごとに見直されることもあるため、正確な料率は所轄の労働局や社会保険労務士に確認するのが確実です。

また、労災保険は「労働保険」と呼ばれる制度の一部であり、もう一方の柱である雇用保険とセットで扱われることが一般的です。

雇用保険は事業主と労働者が保険料を分担する点で労災保険とは仕組みが異なるため、両者を混同しないよう注意が必要です。

人を雇う際には、労災保険と雇用保険の両方について、それぞれの加入義務や手続きを確認しておくとよいでしょう。

厚生労働省の統計によると、令和6年(2024年)の労働災害による死傷者数は約13万5,000人、そのうち死亡者数は746人にのぼります。

業種を問わず、労働災害は決して他人事ではないことがわかる数字です。

┃労災保険だけではカバーできない部分もある

alt="労災保険の補償範囲”

労災保険は労働者の生活を支える手厚い制度ですが、あわせて知っておきたい点もあります。

労災保険の給付は「必要最低限の補償」を目的とした制度であるため、精神的な苦痛に対する慰謝料や、事故がなければ得られたはずの収入(逸失利益)については、給付の対象に含まれていません。

労働災害の状況によっては、労働者や遺族の方が会社に対して別途、損害賠償を求めることができる場合があります。

安全な職場環境づくりは労使双方にとって大切なテーマであり、日頃からの安全衛生管理や、万が一の際の話し合いの体制を整えておくことは、労働者・会社のどちらにとっても安心につながります。

また、経営者や役員自身は、原則として労災保険の給付対象には含まれません。

現場に立つ機会の多い中小企業の経営者は、この点もあわせて把握しておくとよいでしょう。

会社としてできる備え

こうしたリスクに備えるため、企業側では次のような取り組みが考えられます。

安全衛生管理の徹底

定期点検や安全教育の実施により、そもそも労働災害を発生させない体制づくりを進める。

就業規則・マニュアルの整備

万が一の際の対応フローをあらかじめ明確にしておく。

民間の上乗せ保険の活用

労災保険では補償されない慰謝料や損害賠償金への備えとして、法定外補償保険や使用者賠償責任保険といった「労災上乗せ保険」に任意で加入する企業もあります。

上乗せ保険はあくまで数ある備えの一つであり、必須ではありませんが、建設業など元請けから加入を求められる業種もあるため、自社の業種特性に応じて必要性を検討するとよいでしょう。

┃よくある質問

Q. 労災保険は従業員が1人でもいれば加入義務がありますか?

はい。労働者を1人でも雇用すれば、業種や事業規模を問わず加入義務が発生します。

パート・アルバイトなど雇用形態にかかわらず、すべての労働者が対象です。

Q. 労災保険の保険料は誰が負担しますか?

保険料は全額、会社(事業主)が負担します。

健康保険や厚生年金保険とは異なり、労働者本人が保険料を負担することはありません。

Q. パート・アルバイトも労災保険の対象になりますか?

なります。雇用形態にかかわらず、労働者として雇用されているすべての人が労災保険の対象です。

Q. 通勤中の事故も労災保険の対象になりますか?

なります。業務中の事故を「業務災害」、通勤中の事故を「通勤災害」と呼び、いずれも労災保険の給付対象です。

Q. 労災保険から慰謝料は支払われますか?

支払われません。労災保険は治療費や休業中の収入などを補う制度であり、精神的苦痛に対する慰謝料や逸失利益は給付の対象に含まれていません。

Q. 経営者や役員は労災保険の対象になりますか?

原則として対象外です。ただし、中小事業主等特別加入制度など一定の条件を満たせば任意で加入できる制度もあります。

Q. 労災保険の加入手続きはいつまでに行う必要がありますか?

労働者を雇用した日から10日以内に「保険関係成立届」を、50日以内に「概算保険料申告書」を所轄の労働基準監督署または労働局に提出する必要があります。

Q. 労災保険と雇用保険はどう違いますか?

労災保険は業務・通勤中の事故やケガに備える制度で保険料は会社が全額負担します。

雇用保険は失業や休業時の生活を支える制度で、保険料は会社と労働者が分担して負担します。

両者をあわせて「労働保険」と呼びます。

まとめ

労災保険は、すべての企業に加入が義務づけられた重要な制度であり、従業員の生活を守る土台となる仕組みです。

制度の内容を正しく理解し、加入手続きを適切に行うことが第一歩となります。

そのうえで、慰謝料や損害賠償金までは補償されないという限界もあわせて踏まえておきましょう。

安全管理の徹底や必要に応じた保険の活用など、会社としてできる備えを総合的に検討していくことが大切です。

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