パワハラ防止法により、2022年4月から中小企業を含むすべての企業に、職場のパワーハラスメントを防止するための措置が義務付けられました。
厚生労働省の発表によると、令和6年度の労働施策総合推進法(パワハラ防止法)に基づくパワハラ相談件数は72,789件です。
研修の実施や相談窓口の設置は多くの企業で進んでいるものの、現場では「これはパワハラに該当するのか」という判断に迷うケースも多くあります。
この記事では、パワハラ防止法とはどのような法律なのか、企業が法律上負っている4つの義務、そして相談体制の整備から対応フロー、日々の予防策などを含めた具体的な対応策を整理して解説します。
┃パワハラ防止法とは何を義務付けているのか
「パワハラ防止法」とは通称であり、正式には2019年に成立した改正労働施策総合推進法を指します。
職場におけるパワーハラスメント防止を企業の義務として初めて法律に明記したことから、この通称で呼ばれています。
パワハラ防止法の根拠となる労働施策総合推進法第30条の2第1項では、
事業主に対し、職場における優越的な関係を背景とした言動によって労働者の就業環境が害されることのないよう、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、その他の雇用管理上必要な措置を講じることを義務付けています。
この義務は2020年6月に大企業から先行して施行され、2022年4月からは中小企業を含むすべての企業規模に適用が拡大されました。
┃企業に求められる4つの措置

厚生労働省の指針では、企業が講じるべき措置として次の4つが示されています。
📌方針の明確化と周知・啓発
パワハラの内容や、パワハラを行ってはならないという方針を、就業規則などの文書に明確に定め、全従業員に周知します。
あわせて、行為者に対して厳正に対処する方針と具体的な対処内容も明記しておく必要があります。
📌相談体制の整備
相談への対応窓口をあらかじめ定め、労働者に周知します。
厚労省の指針では、セクハラなど他のハラスメントの相談窓口と一体的に設置し、対応できる体制を整えることが望ましいとされています。
窓口を形式的に設置するだけでなく、実際に機能する体制であることが重要です。
📌事後の迅速かつ適切な対応
相談を受けた際には、事実関係を迅速かつ正確に確認したうえで、被害者に対する配慮の措置(配置転換、休職への配慮など)と、行為者に対する措置(懲戒処分、配置転換、再発防止研修など)を、事案の重大性に応じて適切に実施します。
📌プライバシー保護と不利益取扱いの禁止
相談者・行為者双方のプライバシーを保護するための措置を講じるとともに、相談したこと自体を理由とした不利益な取扱い(解雇や降格など)を行わないことを定め、周知します。
相談窓口の担当者に対するプライバシー保護研修の実施なども有効です。
┃相談を受けたときの対応フロー
実際に相談が寄せられた場合、企業は次のような流れで対応することが一般的です。
1.相談者からの事実確認(いつ、どこで、何が起きたか)
2.必要に応じて行為者・第三者からのヒアリング
3.就業規則に基づく処分の検討(懲戒処分、配置転換、研修など)
4.被害者への配慮措置の実施
5.再発防止に向けた社内周知・研修
就業規則には、たとえば「違反が確認された場合、調査を実施し、就業規則に基づき懲戒処分を行うものとする」「相談者のプライバシーは厳重に保護され、報告による不利益な取扱いは行わないものとする」といった条文をあらかじめ盛り込むことで、対応基準が明確になり、従業員が安心して相談できる環境につながります。
┃法改正で押さえておくべきポイント
2025年6月には改正労働施策総合推進法が公布され、これまでの措置義務に加えて「カスタマーハラスメント」および「求職者等に対するセクシュアルハラスメント」についても、事業主に雇用管理上必要な措置を講じることが新たに義務付けられます。
施行日は公布後1年6か月以内の政令で定める日とされており、2026年10月頃の施行が見込まれています。
しかし、現場からは「制度は整えたが、個別の事案がパワハラに該当するかどうかの判断に迷う」という声も上がっています。
研修の実施だけでなく、管理職自身が判断基準を具体的に理解し、初動対応を誤らない体制づくりが今後さらに重要になってきます。
┃発生を未然に防ぐための取り組み

義務として求められる4つの措置に加えて、日常的な予防の取り組みを積み重ねることも重要です。
予防の例として、以下の取り組みが挙げられます。
📌管理職を対象としたハラスメント研修を定期的に実施する
📌匿名で回答できる社内アンケートによって潜在的な不満やハラスメントの兆候を早期に把握する
📌1on1ミーティングなどを通じて日頃から従業員とのコミュニケーション機会を確保する
制度としての相談窓口があっても、実際に「安心して相談できる」と従業員が感じられる職場の空気がなければ、窓口は機能しません。
窓口設置と並行して、心理的な安全性を高める施策も検討する価値があります。
┃義務を怠った場合のリスク
これらの措置義務を怠った場合、事業主は厚生労働大臣から助言・指導・勧告を受ける可能性があります。
勧告に従わない場合は、その旨が公表されることもあり、企業の社会的信用が落ちるリスクがあります。
また、厚生労働大臣は事業主に対して、防止措置の実施状況について報告を求めることも可能とされています。
┃よくある質問
Q. パワハラ防止法とは何ですか?
2019年に成立した改正労働施策総合推進法の通称で、職場のパワーハラスメント防止を企業の義務として初めて法律に明記したものです。
事業主に対し、相談体制の整備をはじめとする雇用管理上必要な措置を義務付けています。
Q. パワハラ防止法は中小企業にも適用されますか?
適用されます。2020年6月に大企業から先行して施行され、2022年4月からは中小企業を含むすべての企業規模が対象になりました。
「小規模だから対象外」という認識は誤りです。
Q. 企業が講じるべき4つの措置とは何ですか?
①方針の明確化と周知・啓発、②相談体制の整備、③事後の迅速かつ適切な対応、④プライバシー保護と不利益取扱いの禁止の4つです。
いずれも就業規則への明記や実際に機能する運用が求められます。
Q. 相談窓口はどのように設置すればよいですか?
窓口をあらかじめ定めて労働者に周知することが必要です。
厚労省の指針では、セクハラなど他のハラスメント相談と一体的に設置し、一元的に対応できる体制を整えることが望ましいとされています。
Q. 措置義務を怠った場合、どのようなリスクがありますか?
厚生労働大臣から助言・指導・勧告を受ける可能性があります。
勧告に従わない場合はその旨が公表されることもあり、企業の社会的信用に直結するリスクとなります。
Q.法改正で何が変わりますか?
2025年6月に公布された改正法により、カスタマーハラスメントと求職者等に対するセクシュアルハラスメントについても措置義務が新設されます。
施行は2026年10月頃が見込まれています。
Q. パワハラを未然に防ぐために日常的にできることはありますか?
管理職向けの定期研修、匿名の社内アンケートによる兆候の早期把握、1on1などを通じた日常的なコミュニケーション確保が有効です。
制度整備だけでなく、相談しやすい職場の空気づくりも欠かせません。
┃まとめ
パワハラ防止法への対応は、単なる法令遵守にとどまらず、従業員が安心して働ける職場環境をつくるための土台です。
方針の明確化・相談窓口の実効性・迅速な事後対応・プライバシー保護という4つの柱を、形式だけでなく実際に機能する仕組みとして整えることが、結果的に企業への信頼にもつながります。
制度を整えて終わりにするのではなく、定期的な見直しと現場への浸透を続けることが、実効性のあるハラスメント対策への近道です。

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